気になるコメントをいただきましたので、ちょっと考えてみたいと思います。
以前、性同一性障害の治療に保険が利かないわけを、製薬会社に勤める女の子に尋ねたことがあります。
以下その概略です。(世間一般はこう考えているのかもしれません。)
躁鬱病や統合失調症、アルツハイマー病等の精神病は、科学的に体内における発症メカニズム(受容体、酵素の働き等)がかなり解明され、色々な薬も出回っている。
けれども性同一性障害は、科学的に体内における発症メカニズムがはっきりわかっていないから、実際にはまだまだ病気として認知されていないんじゃないか。
また、結果的に今はホルモン投与や性転換手術などしか対処の方法がなく、それは「治療」ではなくて、精神的な症状は緩和されても肉体は明らかに傷つけられている。
それゆえ保険適用外なんだと思う。
もっと研究が進んで、科学的に体内における発症メカニズムがわかり、性同一性障害の男女が身体通りの男女に戻れるような薬ができれば保険が利くようになる。
その時は、あらゆる治療法を尽くしてもどうしようもなかったがん患者にモルヒネが投与されるように、ホルモン投与や性転換手術は性同一性障害患者に対する最後の手段としての位置づけになると思う。
・・・と彼女は言いました。
以下その概略です。(世間一般はこう考えているのかもしれません。)
つまりは、世間一般はこう誤解している、ということなのですね。
躁鬱病や統合失調症、アルツハイマー病等の精神病は、科学的に体内における発症メカニズム(受容体、酵素の働き等)がかなり解明され、色々な薬も出回っている。
けれども性同一性障害は、科学的に体内における発症メカニズムがはっきりわかっていないから、実際にはまだまだ病気として認知されていないんじゃないか。
確かに色々な薬も出回っていますが、対症療法薬がほとんどで、症状を緩和させるのが主です。
ひどい打撲や骨折には強い痛み止めや炎症を抑える薬が出ることがありますが、それは治療を補助する薬であって、治療薬ではないですよね?
治療薬とは、それ自体が病気や怪我の症状を改善させる薬ですから、例えば、タミフルはインフルエンザの治療薬ですけど、一般的な風邪薬は自然治癒を助けるための薬に過ぎません。
基本的に、精神病とカテゴライズされる病気に投与される薬はそういう薬が多く、病状の進行を遅らせたり、症状を抑えることによって、自然治癒を待つわけです。
性同一性障害の発症(あえて適切な言葉がないので発症とここでは言います)メカニズムはまだよくわかっていないところも多いのですけど、基本的に先天性のものです。つまり、性同一性障害の人にとっては、今の状態の脳がデフォルトで、薬を投与して変えることができたとしても(脳の働きはまだよくわかっていないので、どうすれば性別を変えることができるかはわかっていません)、戻すことはできません。
性同一性障害の人の脳は、「正常」です。
身体の方もやはり「正常」です。
性同一性障害であっても、ほぼ正常な精神状態の人がほとんどで、精神的に異常が起きて、肉体の性別とは逆だと思い込んでいる訳ではありません。正常なものを治療することはできませんから、精神病としての治療は無意味です。
性同一性障害とは、正常な脳(心をつかさどるものなので心と言われることが多いです)と身体の性が、どちらも正常であるにもかかわらず、一致していないことです。
脳を中心とする中枢神経系が作り出す性別は、性器を中心とする肉体的な性よりも表現型ははっきりはしていませんし、杓子定規に二つに分けられるものでもありませんが、どちらかと言えば男または女、と分けることはできます。
中心に寄ればよるほど、中性的ということですが、両端にいる人も確かに存在します。
その両端にいる人が、その心の性別と逆の肉体を持ってしまったとしたら・・・
性同一性障害とは、病気ではありませんが、その不一致が数々のストレスをもたらして、病気を引き起こす引き金になる、そういう状態なのです。
病気として認知されていない、のは個々の部分をクローズアップしてみれば正常で、病気ではないからかもしれません。
でも、極端な話、犬の体に自分の脳が移植されて、一生犬として過ごさなければならないとしたら、あなたは正常な精神状態でいられますか?
しかも、その犬の身体の能力、人間の脳で使い切れますか?
生まれつきの身体ですから、ある程度、ワタシの脳でも適応はしていますけど、男の身体のまま女性らしい仕草、立ち居振る舞い、考え方、喋り方、その他もろもろの行動をして普通の社会生活できますか?
芸能人なら、「オネェ」でくくってしまえば済んじゃうんでしょうけど、自分も、自分の身の周りの人も白い目で見られて、そんな生活耐えられると思いますか?
そのままでは社会に適応できない以上は、性の移行は欠かせないんです。
病気の障害ではないにせよ、社会に適応できず、医療の助けを借りる必要があるのなら、それを疾患として認知しないのはおかしいと思うのです。
また、結果的に今はホルモン投与や性転換手術などしか対処の方法がなく、それは「治療」ではなくて、精神的な症状は緩和されても肉体は明らかに傷つけられている。
それゆえ保険適用外なんだと思う。
性同一性障害では、まず、心と肉体の性が違うということで、強いストレスを溜め込む状態になり、精神障害を引き起こすことが多いですし、また、社会との軋轢も多く、小さい頃から男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしくと育てられること自体もストレスにつながり、それが一生続きます。
性の不一致が小さい場合は、まだストレスが少なく、そのため精神障害の引き金になることも少ないですが、大きい場合には言わずもがなだと思います。
しかし、心も正常、身体も正常では治療のしようがありません。
勢い、精神疾患を引き起こした場合には、その症状の緩和の方向に治療は向かうことになりますが、根本的な原因が解決されていないので、同じ病状を繰り返すことになります。
うつを引き起こすことが多いですが、ある意味うつ病は精神疾患の中でも致死率の高い病気と言えますから、この方向に向かうのは医療者としては避けたいところでしょう?
だから、性同一性障害の人には何らかの治療をして、その不一致を解消しないといけない、という方向に治療が向かうわけですね。
肉体を傷つける、これはたしかに事実ですが(ホルモン治療は投与を続ければ元の状態に戻すのは不可能です)、精神の方を肉体の性に近づけようとすれば、今度は脳を投薬などによって改造しなければなりません。
脳の性別は構造的なもので、肉体と同じです。
脳の性別を改造しない限りは、精神が肉体の性に近づくことはありません。
したがって、どちらにせよ傷つくことに変わりはないのです。
性同一性障害は先天的なものだ、と述べましたが、脳から見れば、先天的に肉体が脳の性とは違っているということになり、身体から見れば、脳の性が身体とは違っているということになります。
人は見た目で判断しがちなので、見えない方を変えればいいんじゃないか? と考えがちですが、脳の性別を変えるのは、脳のメカニズムが完全に解明されていない現代では不可能ですし、科学が進んだとしても性を変えることで人格に影響が起きないというのは考えにくいです。
脳の性別を変更するには構造を変更するということで、ある意味別の人間を作ることになります。
身体の方を変えたとしても、人格に変更はありません。
性別が変わったとしても、その人はその人のままです。
だから、肉体の方を何とかするのはごく自然の流れだと思うのです。
手術をすれば目が見える、耳が聞こえる、歩ける・・・様々な障害があるけれど、肉体を改造すること、機械の補助を受けることで改善することであれば、可能な限り人はそれを受け入れようとするでしょう?
対して、自分が自分でなくなるのがわかっていて、心を変える手術など、誰が受けたいですか?
不自然なことを執行しようとする方向には保険が利いて、自然な流れの方に保険が利かないというのがものすごく不思議な気がするんですよ。
もっと研究が進んで、科学的に体内における発症メカニズムがわかり、性同一性障害の男女が身体通りの男女に戻れるような薬ができれば保険が利くようになる。
研究が進んだ結果、性同一性障害は、肉体の性と心をつかさどる脳の性別が一致しないものだということがわかってきたんです。
身体通りにしようとすれば、脳が傷つき、脳の性に合わせようとすれば肉体が傷つく、そういう構造になっています。
今までに述べたように、脳を肉体の性に近づけようとすれば、人格を変えることになります。それが「戻る」という状態でしょうか?
しかも、脳を改造するという行為は人格が変わるだけではなく、非常に危険な行為でもあります。肉体を改造しても、一次的に生命を失うことはまずありません。二次的に、ホルモンの副作用で高血圧・血栓を起こして死に至る、または、性転換手術など肉体にメスを入れるときに医療ミスを起こして亡くなる、などのことはあるかもしれませんが、それでも脳手術・脳の薬物による改造などのほうが数段危険度は高いでしょう。
もし、薬物によって、性の偏りを抑えられるとしても、それは軽度の場合でしょう?
ストッパーにはなるとしても、押し戻すほどの力はないと思われます。
軽度ならば、肉体改造の必要もないわけだし、したがって薬に頼る必要もないわけです。
そんな薬が意味を持つでしょうか?
それに保険が利くのだとしたら、一体何のための薬なんでしょうか?
ワタシの脳は、そんなもの求めていません。
できうれば、完全なる女性の体、形も機能も正常な女性の体を求めているんです。
もう男性に戻ろうとは思いません、いや、もともと生まれつき男性じゃないんですから、戻るというのも変な話ですよ。
戻すなら、変えるなら、身体の方を・・・これがワタシの気持ちですよ。
その時は、あらゆる治療法を尽くしてもどうしようもなかったがん患者にモルヒネが投与されるように、ホルモン投与や性転換手術は性同一性障害患者に対する最後の手段としての位置づけになると思う。
最後の手段かもしれません、しかし、今まで述べたようにそれしか手段がないのですよ。
あくまで、緩和治療に過ぎない、と言われればそれまでですが、緩和治療には全く保険が利かないのか? と考えると、そんなことはないでしょう?
ただの風邪薬、痛み止め・・・それ、保険適用じゃなかったですか?
症状を緩和する・・・だけですよね?
じゃあ、なぜ、性同一性障害の治療には保険が利かないのか・・・
この女性の薬剤師の方の述べられた論法では、全く理由がつかないのです。
